友だちがいない男 | フシギ不動産日記

友だちがいない男

当時所属していた支店が某大手メーカーの工場近くということもあり、

それなりにその社員を斡旋することがあった。

もちろん、私も斡旋する機会があった。そのときの話である。

独身男性で歳は当時の私(21歳)より少し上だったと思う。そんな彼に

支店の裏にある1Kの物件を勧めたところ、気に入っていただきスムーズ

に契約、入居まで至った。その期間10日ほどである。

ある日のこと、私は物確(※1)に出ていたときに、その彼が来店したら

しく、何か言いたげにしていたが、私が不在であることを知るとそのまま

去ったようだ。

物件自体ちょっと古め(築10年)だったから、何かクレームかも・・・

とちょっと心配しながらも、過去の顧客シートを確認して彼の住む部屋へ

向かった。

先に書いていたが、支店のすぐ裏なので1分後には彼の部屋の前に立って

いた。

(ピンポ~ン)○○センターですけれども!

(ガチャ)

あぁ、お久しぶりです。

お久しぶりです。△△さん何かありましたか?

あぁ、ちょっと中に入ってもらえますか?

・・・部屋の電気か?水漏れ?、浄水器の設置方法が分からない?

いろいろ考えながら部屋に入った。

彼は入ってすぐに立ち止まり、私に向かってこう言った。


電話買ったんですよ。


・・・そう、彼はそれだけを伝えに来店し、私を呼んだのである。

私は心の中で、そっとつぶやいた。


あなた、友だちいないんだね。



※1 物確:物件確認の略。初めて斡旋する物件など予め説明できるよう
   下見や物件の状態を確認することを言う。