空き物件を活用する男
賃貸斡旋も慣れてきた夏くらいのことだった。
離婚されたばかりの子連れの女性が来店された。
条件は支店の近くの2DKがよいとのこと。
しかしながら、2DKというのは結構難しく、扱っている物件自体がそうないのである。当時は賃貸での2LDKが珍しいくらいか出始めたくらいかと思う。
さて、来店されたとき物件が無かったので調べて連絡するということで、一旦時間をいただくことにした。
それから一般物件を調べていると一つの物件が見つかった。
今でもその物件の名称は覚えている。「青葉マンション」だ。
マンションといっても昔ながらの社宅のようなマンションで当時で築15年くらいだったと思う。とりあえず家主様へ連絡して、物確(※1)に向かった。
1階にある家主様がいる会社から鍵を借りて、3階の空いている部屋へ向かった。そして、鍵を差して・・・
「・・・あれ?」
「あれあれ?」
鍵がかかっているはずなのに、鍵穴が回らない。ラクス・クラインも驚くほどのあれあれの状態だった。
「わざわざ家主様が『鍵閉めておいたから』と言って俺に鍵を渡してくれたのになぜ?」
そんな思いをしながら、ドアノブへ手をやり、そしてとりあえず
ドアを開けてみようとしたその瞬間である。
ドアが勝手に開いたと思うと、一人の男が出てきたのである。
「・・・?」
思わずお互い顔を見合わせたまま5秒くらい硬直していた。
そして、男はこう言って走って逃げた。
「スミマセン借りました。」
「なんだ、なんだ。スミマセンって。空き部屋に入っても貸すものは無いのに・・・。」
不思議に思いながら部屋の中に入ると・・・それが何を指しているのかが嫌でも分かった。
鼻にくるこの悪臭・・・そう、その男はこの空き部屋で
う○こをしていたのである。
・・・ってことはわざわざ空いている部屋を探して、そしてトイレに入ったのだろう。
後にも先にも空き物件でこんなことされていたのはコレだけだった。
※1 物確:物件確認の略。初めて斡旋する物件など予め説明
できるよう下見や物件の状態を確認することを言う。